「愛せないってどんな感覚ですか?」(伊藤さん)「その人を100%好きじゃないっていう感覚ですね。」(谷川さん)

愛が不足しているから距離がとれる

伊藤 谷川さん、怒鳴りはしないまでも、イラッとすることはあるでしょう。どうやって気分をコントロールしてますか?

谷川 そういう人に対して、「ああ、この人はこういう人なんだな」と興味を持ちますね。

伊藤 前に怒鳴ったときっていうのは、どんな感じでしたか。

谷川 もう相手の名前も覚えてないの。そうだ、夫婦でもあった。妻が酔っ払ってわけのわからないことをわめいてたときに、シャワー浴びせかけて怒鳴ったこと、あります。

伊藤 わぁ、こわぁ~い。そういうこともするんだぁ~(笑)。ものすごく意外。でもあたしも夫と口論して、噛みついたことある。

谷川 え、なんで? どこに?

伊藤 太ももに。英語でガーッと言われて追い詰められて、ついガブリと。でも恨まれて、痕が残って、1ヵ月は針のむしろだった。

谷川 やっぱり、ケンカ能力があるんだよ。

伊藤 イラッとしたときのあたしの手段も谷川さんと同じなんですよ。この人はあたしとは違って、こういうやり方なんだなって思う。そこでふっと消えるんですよね、わだかまりみたいなものが。それ、あたしがよく唱えてる、「あたしはあたし、人は人」なんです。これって、谷川さんの言うデタッチメントでしょう。

谷川 そうも言えますね。

伊藤 デタッチメントって、人間社会をうまく生き延びるために、必要不可欠な能力ですよね。

谷川 そうねえ。でもおれは妻から「なんで叱ってくれないのか、怒鳴ってくれないのか」ってことは言われてましたね。

伊藤 言われましたか。わかるわ、奥さんの気持ちは。でも実際は叱られたらイヤですよねー。ほかの誰に叱られるよりどしーんとくるんじゃないかしら。谷川さんに、その研ぎ澄まされた日本語で、お前のここがだめなんだとか言われたら……。立ち直れませんよ。

谷川 いや、おれそんなに人に対して親切じゃないから。そこまで関心がないの。簡単に言えば。

伊藤 妻にも?

谷川 妻にも。若い頃からの一番の悩みは、自分は「愛せない」ということなんですよ。相手が愛してくれないじゃなくて。

伊藤 愛せないってどんな感覚ですか?

谷川 その人を100%好きじゃないっていう感覚ですね。

伊藤 でも谷川さんだから、ことばを駆使して、いかにも自分は愛しているように見せかけることはできるでしょ。

谷川 でもやればやるほど嫌われますね。だいたいそんなことを上手くことばにできるというのは、実際には愛していないということですよ。愛していないとは言わないけれど、愛が不足しているから距離がとれるわけですよ。