お見舞いに来てくれた橋本くん
1学期の終業式のあと、教室で担任の先生が、これから手術に立ち向かう私を励ます会を開いてくれても、橋本くん以外まったく反応が薄かったのはこんなことが理由だ。励まされる側の私でさえ、なんの感慨もなく、さよならと手を振って下校したほどだ。
橋本くんがお母さんと一緒に、私が入院している病院まで私を見舞いにやってきてくれたのは、夏休み中のとある1日のことだった。私の記憶が正しければ、私はすでに手術を終え、ある程度快復し、個室に滞在していた期間だ。ある暑い日の午後、開け放った病室ドアから続く廊下の先に、きれいな女性に手を引かれた、少年の姿が見えた。白い開襟シャツに青い半ズボン、白いハイソックス。少しだけおしゃれをした橋本くんだった。
母は、橋本くんとお母さんの姿を見て、たいそう喜んでいた。母と橋本くんのお母さんは、普段から仲がよかったのだろうと思う。2人は笑いながら声をかけあって、楽しそうにしていた。母の明るい表情を見るのは久しぶりのことだった。橋本くんは、お母さんに手を握られたまま、恥ずかしそうに下を向いていた。
私は橋本くんの姿を見た瞬間、大きな衝撃を受けた。理解できない感情が体中を駆け巡るようだった。会いたくない! 絶対に会いたくない! しかし、そんな私の動揺に一切気づいていない母は、橋本くんとお母さんを病室に招き入れた。