幼き日のハリー

怒りが抑えきれなかった

「ほら、橋本くんが来てくれたわよ」と母が言い、橋本くんのお母さんの笑顔が見えた瞬間、私はベッドを飛び降りて、病室のカーテンの後ろに隠れた。そんなことをしても橋本くんから身を隠すことなどできないとわかっていたのに、私は必死になっていた。橋本くんへの怒りが抑えきれなかった。こんな姿を見られてしまった。橋本くんに、病院にいる姿を見られてしまった。誰にも見られたくなかったのに! なんで来たの? 許せない! そんな気持ちだった。

母は慌てた。大慌てで、私の手を引っ張ったが、私は頑として動かなかった。気を利かせた橋本くんのお母さんが、母に対して、いいわよ、あたりまえじゃない、この子だってつらいのよ、あたしにはわかるから……というようなことを言った。それを聞いた母は、突然泣きだした。私はパニックである。なぜ母が泣き出したのか、まったく理由がわからない。泣きたいのはこっちなのに、なんで母が泣くのか? まさかこれから叱られるのか? これはまずいことになった……。

橋本くんとお母さんは、それからすぐに帰って行った。母は泣きながら2人を廊下の先まで見送りに出た。私は、病室のドアの陰から、しょんぼりした橋本くんがお母さんに手を引かれて帰って行く様子を密かに見ていた。ベッドの上には、橋本くんのお母さんが持ってきてくれたお菓子と絵本が1冊置いてあった。

私はその両方を手に取ると、廊下に向かって力いっぱい投げつけた。絵本がパーンという大きな音を立てて、廊下に打ち付けられた。お菓子が入った箱は蓋が開き、丸くて小さなカップケーキが転がり出た。振り返った橋本くんの表情は記憶にない。橋本くんのお母さんの表情も思い出せない。母は急いですべてを拾い集めていた。