世の中、知らないことだらけ
じつは、料理教室を始めた頃は、高級西洋料理や洋菓子を中心に教えていました。当時は目新しい外国の料理を習おうと、多くの生徒さんが集まったのです。でも同時に、料理関係者で体をこわす人や太る人が増えてきて……。思えば私が世界各国で見てきた郷土料理は、どれも土地の特性が生かされ、民族の知恵が詰まっていた。そこでハッと気がつきました。健康を保つためには、日本人の体に合う料理を食べるべきなのだと。
それで46歳の時、「伝統的な日本の家庭料理」の指導に切り替えたのです。生徒さんが減るのはしかたない。まずは料理を教える人が病気になってはいけない、という気持ちが強くありました。きっとあの時の気づきが健康につながり、大好きな料理の仕事を長く続けることができたのでしょう。
今も、「自分が生きている土地に合ったものを食べる」ことが「命を養う一番よい食べ方」であるという信念は変わりません。
今の世の中は、ずいぶん不確かなものが多くなりました。だからこそ、《ほんもの》を見極める力を身につけておくといいですね。それを養うには、自ら体験し、知ることが大切。私だって、まだ知らないことだらけよ。歳だからって心配することはありません。体は少々老いても、好奇心まで老いるわけじゃありませんから。
私にとって料理を学び続けることは、自然の摂理を知ることと同じ。お日さまに生かされ、自然の恵みによって体が作られる。生徒さんにもよく「空を見上げてごらん」と言っています。眺めるだけでも、いろんなことを感じるはず。
今日も感謝しながらごはんを食べ、昨日知らなかったことをまた一つ学べるといいなと思います。