「食事は、体の声に耳を傾けて腹六分目まで。栄養バランス以上に、食べすぎて消化が追いつかないことのほうが体には毒です。50歳を過ぎれば、次の食事が楽しみになるくらいの量がちょうどいいんじゃないかしら。」(撮影:繁延あづさ)
福岡市内に、20代から70代まで幅広い世代が集うマンションの一室があります。ここは、長きにわたり料理塾を主宰してきた桧山タミさんの自宅。現在94歳、医者知らずの暮らしには、食やものに対する丁寧な姿勢がそこかしこに息づいていました(構成=田中文 撮影=繁延あづさ)

教室の看板を下ろし、土に触れる生活へ

私は約60年間、生まれ故郷の福岡で料理教室を営んでいました。結婚6年で夫を亡くし、2人の子どもを育てるために夢中で働いてきましたが、2019年11月、93歳で「桧山タミ料理塾」の看板を下ろしたところです。ここまで続けられたのは、たくさんの生徒さんのおかげ。感謝しています。

20年1月からは若い生徒さんが主体となって、思いのままに料理を作る「桧山料理勉強会」を始めたばかりでした。新型コロナウイルスの影響で、今は残念ながらお休み中です。

これまで寝る間もなく働いてきたので、こんなに自由に使える時間ができたのは初めて! でも、意外とこの生活を楽しんでいます。今は、大分の山奥に住んでいる息子の畑仕事を手伝うために、福岡と行ったり来たり。昔から土をいじるのが好きだから、こういう時間ができてありがたいの。草を取ったり、苗を植え替えたり、けっこう忙しいんですよ。

長年続けてきた心と体の養生

私は毎日、陽がのぼるより少し前に起床します。一日のうちで、朝が一番好き。リビングに風を通したらゆっくり深呼吸をして、のぼってくるお日さまに「おはようございます。今日もよろしくお願いします」と手を合わせて一日が始まります。陽の光を浴びると、体の底から力が湧いてくるようです。たとえちょっと嫌なことがあっても、「新しい日が始まるから大丈夫!」って。

その後、20分ほどラジオを聴きながら乾布摩擦をして、よく焼いた梅干しをひと粒入れた番茶を飲むのが日課です。

「朝の梅は難逃れ」と昔から言われます。梅干しは血液をサラサラにする以外に殺菌・解毒の作用があるので、胃腸の調子がよくなり、食欲も出てくる。とくに古い梅ほど効果があるのです。体の芯から温まって汗が出るから、風邪もはやく治ります。

医者だった兄が患者さんに勧めるのを聞いて始めた乾布摩擦は、もう50年以上の習慣です。棕櫚(しゅろ)のタワシを使って、手先や足先から心臓に向かってザッザッとこすります。痛くないです。気持ちいいの。そのおかげか、私の体温は他の人よりも高い。冬の寒い時は、いつもまわりの人の手をこすって温めてあげるお役目なんです。