娘の気持ちを理解するには

夫とは、当初英語でコミュニケーションを取っていました。でもやはり彼の母国語で、オーストリアの公用語でもあるドイツ語を覚えなくてはいけないと思い、勉強を始めたのには、2つ理由があります。

中谷美紀さんの新著『オーストリア滞在記』(幻冬舎)

まず、周囲の人に気を遣わせているのが心苦しくなってきたのです。私と話すために、無理して英語を使ってくださる方もいるようでした。

そして何より大きな理由が、彼の娘Jの存在です。Jは、夫が私と出会う数年前にお別れしたパートナーとの間に生まれた一人娘で、彼女に初めて会った時はまだ4歳でした。ボキャブラリーもそう多くはなく、ドイツ語の単語を羅列するとなんとかコミュニケーションを取ることができました。でも大きくなるにしたがい、彼女が私に伝えたいことを理解してあげられないせいで、もどかしい思いをさせていると感じたのです。

Jがわが家で過ごすのは、週に1回か2回。夫と私が英語で話していると彼女は疎外感を抱くようでしたから、彼女の気持ちを理解し、コミュニケーションを円滑にするためには、ドイツ語を学ばなければ始まらないと思いました。

彼女はお母さんと一緒に暮らしており、私たちが迎えに行く時もあれば、Jのお母さんやおばあさんがこちらに連れてきてくださる場合もあります。ときにはお母さんが焼いたケーキをもってきてくれたり、2つの家族が一緒に食事をすることも。Jのお母さんにも新しいパートナーがおり、お相手にはJと同い年の娘がいるそうです。

そんなふうに、別れた男女がお互いの新しいパートナーとの暮らしを尊重しながらも、協力して子育てを行うことは、ヨーロッパではごく当たり前のこと。まるで布を縫い合わせるようにつながっていく「パッチワークファミリー」は特別なものではありません。