すごい形相で「誰が捨てただ!」

それでも、義父がいたおかげで、なんとかゴミ屋敷寸前で踏みとどまっていた。しかし義父が亡くなり、家事というものをほとんどしない義母だけが残された家を久しぶりに訪問すると、玄関を開けた途端に異臭が漂ってきた。

その臭いのもとをたどれば、真っ黒になったバナナ。すぐさまそれを捨てようとすると、「まだ食べられる」と抵抗してくる。次に驚いたのは、ベランダに使ったままの鍋が雪崩を起こしそうなほど重ねてあったこと。汚れた鍋を洗うくらいなら、新しいものを買ったほうがラクだと思ったのだろうか。

その時点で義母の認知症を少し疑ったが、これがどうもそういう様子はない。とにかくモノへの執着が激しい以外は、会話も、テレビを観ての感想も極めて普通なのである。

試しに開かずの間を覗いてみると、古い人形や破れた布団、流行遅れの洋服や似たような柄の洋服、傘などが、文字どおり足の踏み場もないほど山のように積まれていた。どんなに値段が高く、よいものを買ったとしても、きちんと使わなければ何の価値もないだろう。

その日から、きれい好きの夫は義母にわからないように少しずつモノを処分していくことにしたのだが、それに気づいた時、義母はすごい形相で「誰が捨てただ!」と言い放った。たとえゴミに見えたとしても、自分のモノを勝手に捨てられれば、誰でも多少の怒りは覚えるのかもしれない。

だが、夫は仕事で疲弊した体を引きずり、母親が快適に暮らせるようにと気遣って整理していたのだ。それに義父の入院費が不足した時、あんなに私たちを頼ってきたのに、その言い草はないだろう。