2020年6月4日、ニューヨークでスティーブ・バノンと郭文貴が「新中国聯邦」の建国を宣言。背後に国旗が見える(YouTubeより)
中国が激動する時、必ず秘密結社が現れる。中国の歴史をひもとけば、1949年に中華人民共和国が成立した後ですら、怪しい集団の「新王朝」が建国している。さらに2020年、新型コロナ流行まっただなかにアメリカで樹立された「新中国聯邦」は、中国共産党の打倒を目指すサイバー国家だという――。『現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史』(中公新書ラクレ)を上梓した中国ルポライターの安田峰俊氏が、当局に反乱を企てる「秘密結社国家」の正体を描く。

1949年以降も「皇帝」を称する者が

古来、中国では世が乱れると、大小の群雄が各地に割拠して王や皇帝を称した。こうした地方政権には秘密結社がらみの勢力も少なくない。たとえば清朝の勢いが衰えた19世紀なかばごろには、洪秀全が拝上帝会を率いて太平天国を建国、「天王」を称したほか、さらに有象無象の秘密結社が福建省や広東省で反乱を活発化し、各地で「大成国」「昇平天国」などと自称する新王朝を作っている。

そして、実は1949年に中華人民共和国が建国された後ですらも、秘密結社の頭目が「皇帝」を称して新王朝を建てた事例が存在する。特に1970〜90年代ごろの中国では新王朝がたくさん建国されていた。

たとえば、皇帝が台湾の蒋介石に向けて郵便局から聖旨を送ろうとした「中原皇清国」、四川省の山奥で還暦前後の男性が皇帝を称したが交通が不便な地域だったので公安に気づかれず9年間の長期政権を維持した「道徳金門国」、山東省で女帝が童貞を集めて後宮を作った「大聖王朝」、天界の金玉(きんぎょく)が降臨したと主張して金玉の魅力で女性をかどわかしていた「黄壇国」などだ。

今回の記事では、新王朝のなかでも規模が大きくロマンを感じさせる「大中華佛国」(1947−53年、1983年)について詳しく紹介しよう。