陰謀論で武装する亡命富豪のサイバー国家「新中国聯邦」
皇帝を称する人たちの事例は、中国人の間で本物の皇帝や王朝体制の記憶が風化してしまった2000年代から急速に数が減った。もっとも、現代は「皇帝」が魅力を失った時代とはいえ、新国家を樹立すること自体が諦められたわけではない。
最近、話題になっているのが、2020年6月4日に建国宣言がおこなわれた「新中国聯邦」だ。これはニューヨークに亡命中の中国人富豪・郭文貴(拙著『もっとさいはての中国』参照)と、彼の盟友でトランプ政権の元主席戦略官であるスティーブン・バノンが中心となった、中国共産党の打倒を目指すサイバー国家である。
郭文貴はかつて共産党の利権構造に食い込む政商だったが、習近平政権の成立後に中国国内で立場を失い海外亡命。2017年からYouTube や各種のSNSを用いて、党高官らの虚実入り混じったスキャンダルを大量に暴露しはじめ、全世界の華人の間で多くのファンを獲得した。しかし、近年は「ネタ切れ」に陥った感があり、新型コロナウイルスは中国が開発した生物兵器であるといったデマをばら撒くようにもなっていた。新国家の樹立宣言は、世間に飽きられかけた彼の起死回生の一手だったとみていい。
郭文貴を熱狂的に支持するファンは、日本でも在日中国人を中心に数多く存在する。2020年11月のアメリカ大統領選挙の後には、日本国内でトランプの「当選」を主張している右派系デモの現場で、新中国聯邦の旗がはためく光景も観察された。
郭文貴を発信源とする新型コロナ関連のデマの流布も相変わらずだ。新中国聯邦はいまや、法輪功と並んで、反中国(反中共)系の陰謀論やフェイクニュースの供給と拡散を担う非常に迷惑な集団と化しつつある。
新中国聯邦に関連した日本国内の団体のウェブサイトは少なくとも3つ存在するが、いずれも代表者名すら明記しておらず、秘密結社めいた雰囲気が強い。中国の怪しい集団が新国家を樹立する伝統は、形を変えて現代まで続いているのだ。