美子と昭子(エリザベス会館のスタジオにて。1996年)

「女子高生昭子」

90年代の中頃、荒木経惟さんの写真展の会場で、以前から顔見知りだった写真家の神藏美子さんから、突然「女装しませんか?」と言われました。

あまりにも突然で、何で女装なのか、何でぼくなのかわからないまま、だいぶ前にエリザベス会館で1回だけ女装したことを話したら、彼女はそのエリザベス会館で発行している女装専門誌『QUEEN』の表紙を撮っていると言うのです。その雑誌に女装メイクのコーナーがあって、そのモデルになって欲しいと言われました。何でぼくに頼んだのかあとで聞いたら、「末井さんならやってくれると思ったから」ということでした。

撮影のある日、家の風呂場ですね毛を剃っていると、奥さんが「何してるの?」と聞くので、「仕事で女装するから剃ってんだよ」と言うと、「気持ち悪〜い」と言われました。その言葉がグサッと心に刺さったのは、自分にもそういう気持ちがまだあったからです。

撮影は亀戸に移ったエリザベス会館のスタジオで行われました。その時ぼくはセーラー服を着て女子高生になりました。女装する人はみんな女装名で呼ばれるようで、『QUEEN』の女性編集長が「名前はどうします?」と聞くので、咄嗟に「昭子」と言うと、途端に「昭子ちゃん、可愛いわよ〜」と言ってくれるのです。撮影中も「昭子ちゃん、可愛い〜」と何回も言われて、もっと可愛くなろうといろんなポーズを取ったりして、だんだん気持ちが「女子高生昭子」になって行きました。

冷静に考えれば、40も半ばのオヤジが女子高生になってポーズを取っているのですから、客観的に見れば「気持ち悪〜い」ことかもしれませんが、みんなから「可愛い〜」と言われると、ついついその気になってしまいます。乗せ方が上手いのです。女装は乗らないと恥ずかしくなるので(それはのちに何回も経験します)、そうならないために、スタッフの皆さんは必死なのかもしれません。そして、気持ちが女性になってしまうと恥ずかしさが消えて、心が解放されて行くのです。

いつの間にか、神藏美子さんもぼくと同じセーラー服を着て、一緒に並んだ写真も撮りました。そんなことをしているうちに、神藏美子さんと仲良くなって行くのでした。