まさか自分が女装にハマるなんて
自分が女装にハマったのも、思ってもみなかったことでした。女装は、ぼくの関心ごとの外にあったことで、店主が女装した飲み屋に行くことはありましたが、まさか自分が女装するなんて、しかもハマるなんて、想像したこともありませんでした。
初めて女装したのは、80年代の中頃だったと思います。ぼくはその頃、白夜書房で『写真時代』という雑誌の編集長でしたが、編集局長でもあったので他の雑誌の発行人にもなっていました。そのなかに『元気マガジン』という風俗雑誌があったのですが、売れなくなって廃刊することになりました。
その雑誌の編集長だった山崎邦紀さん(今は映画監督・脚本家)が、最後だから奇抜なことをやろうと思ったのか、「みんなで女装して最終号の最後のページを飾ろう」とか突然言い出して、編集者やライターやカメラマン、それに発行人のぼくまで、女装サロン・エリザベス会館に行って、女装して写真を撮ることになったのでした。
神田にあったエリザベス会館は、女装マニアの人達が女装して写真を撮ったり寛いだりする場所で、女装関連のショップもあり、専門のメイクの人もいました。本来ならば、すね毛など剃ったりして準備しておくものなのでしょうが、ぼくらのなかには、本気で女装しようと思っている人はいないらしく、口髭の人は髭を剃ろうともしません。そういう雰囲気だったので、ぼくも冗談で女装する気分でいたのでした。