人をひきつける文章とは? 誰でも手軽に情報発信できる時代だからこそ、「より良い発信をする技法」への需要が高まっています。文筆家の三宅香帆さんは、人々の心を打つ文章を書く鍵は小説の「名場面」の分析にあるといいます。ヒット作『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』の著者の連載がスタート! 第2回は「関係性が変わる」名場面について……

第1回「《出会い》の名場面:北村薫『空飛ぶ馬』」はこちら

他者に出会わない物語って、ある?

「小説の名場面」を解説する本連載。

第2回は、「関係性が変わる」名場面をご紹介したいと思う。

というのも。前回紹介したのは「出会い」の場面だった。物語の始まりだ。さて、ここから物語は次に進まなければいけない。……と、考えたところで立ち止まってしまう。物語って、いったいどうやって、前に進むんだ?

物語ってどういうふうに作られるんだろう? と考えてみると不思議な気持ちになる。
現実に住む私たちは、日々息をしていれば、次の日がくる。しかし物語はそうではない。登場人物が日々淡々と生きていても……それだけではなかなか物語(つまりはあるひとつのエピソード)にならない。いや、もちろん主人公が歩いているだけの小説もあるけど。それでも歩いているなかに様々な出会いや発見があってはじめて、ひとつのエピソードになり得るのだ。

そう、ひとつのエピソードが始まるには、主人公が他者と出会うことが、どうしても必要なのだ。そしてその他者と関係性が変化してゆく様子が、エピソードを作ってゆく(ことが多い)。

他者に出会わない物語って、ないんだろうか? そう考えてみると、これがびっくり、本当にない。物語である以上、主人公がいて、そして主人公が誰かに出会うもの……というセオリーがこの世には存在するらしい。

桃太郎だってまずは猿やキジと出会うし、シンデレラも王子様と出会う。かぐや姫もおじいさんと出会うし、マッチ売りの少女ですらおばあちゃんとの出会いを思い出している。
物語とは、つまりは「主人公が誰かと出会う話」のことだ。