家の中は閉ざされた世界

わたしは、どうしても信じることができず、住所をもう一度確認して、果たして同じ事件の話をしているのかを聞いた。やはり、同じ場所で起きたものを指していた。

「ありがとうございました」

わたしは電話を切り、わたしの思い込みの強さに怖くなった。絶対抗争だ! という思いは、オリンピックのときの日本頑張れ! くらい強いものだった。それくらい、絶対だったのに。

夕方、買い物に道に出てみると、細道沿いに軽自動車が置いてあった。

もしや、これは。

奥さんらしき人が、暑い中、駐車場の脇で割れた植木鉢を片付け、植物を新しい植木鉢に入れ替えていた。

もしや、これは。

奥さんらしき人は、わたしと目が合うと、すいませんねえという感じで会釈した。

これは。昨日の抗争の1人はこの細身の奥さんだったのか。

まさか、昨夜のような音を出すような人には思えない。思えないんです。よほど私のほうが、その抗争に見た目でいえば合っている。

これ以外にも、音は、わたしにいろんな想像をさせた。音を聞いて思い描く人は、外で会うと決して思い描いた人ではなかった。

家の中は、閉ざされた世界である。
本当のしあわせは、外から、測り知ることはできない。

 

青木さんの連載「47歳、おんな、今日のところは「●●」として」一覧
 

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10月20日から白井晃 演出の「Home I'm Darling ~愛しのマイホーム~」(シアタークリエなど)に出演する。

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