青木さやかさんの好評連載「48歳、おんな、今日のところは『……』として」――。青木さんが、48歳の今だからこそ綴れるエッセイは、母との関係についてふれた「大嫌いだった母が遺した、手紙の中身」、ギャンブル依存の頃を赤裸々に告白した「パチンコがやめられない。借金がかさんだ日々」などが話題になりました。今回は「『音で想像する人』として」です。
深夜に鳴り響くクラクション
上京して数年経った頃だろうか。
ある日の深夜、家の外で車のクラクションが鳴り響いた。夏の暑い日で、クーラーをつけて寝ていたのだが、つけっぱなしも良くないなと思い、クーラーを切って窓を少しだけ開けて、寝付いたところだった。
パーーーーーー
というクラクションが鳴り響いて飛び起きた。気持ちは飛び起きたのだが、行動はゆっくりだった。怖すぎたのだ。多分、目の前の道路、うちの目の前でクラクションが鳴っているのだが、寝ている1階の部屋から、多分5メートルと離れていない。あまりにも至近距離でクラクションが鳴り響いている。音からすると、軽自動車のようだ。
そのうち
パーーーーー
という音と音の合間に
「轢き殺すぞ!」
というドスの効いた声が聞こえてきた。
パーーーーー
「轢き殺すぞ」
パーーーーー
「轢き殺すぞ」
パーーーーー
「轢き殺すぞ」
パーーーーー
「轢き殺すぞ」
パーーーーー
「轢き殺すぞ」
なかなか轢き殺しはしないのだな、とも思った。
組の抗争だ。
ドラマで見たとき流れてきた音と同じだ。
抗争はひどくなっていった。