日本全国で急増する子ども食堂。その数は5000を超えて広がり続けている。人間関係が希薄になった中、孤立感を深めているのは子どもだけでなく、若者も親も高齢者も同じ。今や誰にでも開かれた「こども食堂」は、地域の多世代交流拠点としても注目されている。一方、全国の子ども食堂を支援してきた社会活動家・湯浅誠氏は「人が『生きた時間』を取り戻すことができる場でもある」と言う――。
カブトムシ、お分けします
「カブトムシを10匹いただきました~。責任をもって飼っていただける方にお分けしたいと思いますが、ご希望の方はこちらにいらしてください~」
40~50畳ほどの広間によく通る女性の声が響く。
畳に座って茶色の長机で食事している親子、トレイを持っておかずを取り分ける列に並んでいる親子40~50人ほどが、声のほうに目を向ける。「カブトムシだってよ」と子どもに話しかける親がいる。
子どもがどんな反応を示すか、長机の向かいから微笑みながら子どもの顔を見つめるのは、地域の高齢者だろう。エプロンをつけているから、ボランティアかもしれない。
カブトムシが入った10個のケースに子どもや大人がむらがり、一通りの喧騒を経て、カブトムシ10匹がそれぞれの家庭に引き取られていった。
ここは、鹿児島県鹿児島市にある玉里団地。約3000世帯が暮らす、戸建ての多いエリアだ。1978(昭和53)年に地名ができたというから、かつての新興住宅街なのだろう。丘を宅地に造成したという風景だ。会場は、その中にある玉里団地福祉館。地域のコミュニティセンターだ。そこの広間で、上記の光景は繰り広げられていた。
地域のお祭り? いや、こども食堂だ。