覚悟を決めたことはもうひとつ。前立腺がんサバイバーは、デリケートな部位であることから口をつぐんでしまいがちです。でも僕は、悪いことをしたわけではないのだから堂々と生きていこうと決めていました。

術後、尿漏れ問題に直面したときも、やっぱり来たなという感じで、客観的に自分の体を観察して面白がっていたんです。「自分の体なのに自分でコントロールできないってこういう感じなのか」とか、「年を取ったときの予行練習だと思えば無駄な体験じゃないな」とか。

尿漏れパッドを近所のドラッグストアまで自分で買いに行っていたのですが、ある日、店員さんから「一緒に写真を撮っていただけますか?」と声をかけられて、「尿漏れパッドの棚の前でですか?」って言いながらピースポーズ(笑)。ちなみに現在は尿漏れパッドから卒業しました。人間の体ってすごいですよね。ちゃんと元に戻るんですから。

 

中学時代に自殺未遂、高校時代には1年間不登校…

がんになったことに限らず、僕の人生には「命」について考える機会がたびたび訪れます。ニューヨークに滞在していた01年9月11日、同時多発テロが起こりました。たくさんの人の命が瞬時にして奪われたという現実が受け入れられず、心を癒やそうとタイのバンコクへ。

ところが滞在初日に交通事故に遭い、頭と顔を50針も縫う重傷を負ってしまったのです。生死をさまよう白い世界のなかで、どこからともなく「まだ生きたいですか?」という声が聞こえてきて、「生きたいです!」と答えたところで目が覚めました。