さて、1センチほどの穴が2ヵ所もあいているセーターをどうしたものか。色はちょっと地味ですが、ウールにシルクとアンゴラの混紡で、とても着心地がよく、軽くて暖かいのです。だから、いくら猫に齧られようと、着続けたい。
すると助手が、「知り合いに直しものが上手な人がいますよ」と言って、預かっていきました。
しばらくして仕上がったセーターを見てびっくり! 同じような色の毛糸で立体的な花を作り、三輪くらいまとめて花から房が垂れるようにして、肩と胸元につけてあるのです。なんでも《ダーニング》と呼ばれる、イギリスの伝統的なつくろい方だそうです。
そんなわけで穴あきセーターは、外出着に昇格。「そのセーター素敵ですね」と褒められると、内心しめしめ。
たとえ多少くたびれても、穴があいてポンコツになっても、工夫次第でもとより素敵になるのですね。こじつけかもしれませんが、なんだか高齢者のありようと似ているなと思い、ベージュだけに米寿のお祝いのときに着ることにした次第です。
※本稿は樋口恵子『老いの福袋-あっぱれ!ころばぬ先の知恵88』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。