「このセリフ、哀しい」と感じた瞬間
榊原 とても夢のあるファンタジーだけれど、悲しさがあるところも、この物語の魅力でしょうね。
吉柳 3年目くらいから、せつなさを感じるようになりました。ピーターとネバーランドで楽しい時間を過ごしたウェンディは、やがて両親たちのもとに帰ります。そして時が過ぎ、久しぶりに彼女の部屋を訪ねてきたピーターは、彼女が大人になってしまったことを知ります。
ウェンディがピーターに「私も(ネバーランドに)行けたらよかったのに」と言うと、ピーターは「君は行けないよ。大人になっちゃったんだから」と答える。すごく残酷ですよね。1年目は何も考えず、悪気もなく言えたのに、3年目になると「このセリフ、哀しい」と感じて、なんだか心に葛藤が芽生えて……。でも、ちゃんとピーターの気持ちで言わなければいけないなと気づきました。
高畑 私も6年の間に、自分自身がどんどん変わっていきました。経験を重ねると得るものも多く、技術や安定感は増すけれど、失っていくものも大きくて……やっぱり特別な役ですよね。
榊原 何を失ったの?
高畑 1年目は、昼公演で120%のパワーを出して、夜公演はグダグダだったりしたんですが、どの公演も一定のクオリティをキープしたいと思うようになって。もちろん安定は大事だけど、まだ半分子どもだったからこそのアンバランスもありだったのにな、と感じます。
榊原 私も初年は頑張りすぎて、公演の途中で声が出なくなってしまったの。たまたま観劇にいらしていた中村勘三郎さん(当時は勘九郎さん)が、耳鼻科の先生を紹介するからと、わざわざ連れていってくださって、おかげで回復したんです。その先生には7年間お世話になりました。
吉柳 そんなことがあったんですね。