『母』(青木さやか:著)

父を絶対に超えられない

小倉 僕はね、今でも一番尊敬している人間は父親なんですよ。

青木 どんな方だったんですか?

小倉 父親は小さい頃台湾で生まれ育ちました。貧乏で、小学生の頃は餅を売ったり、新聞配達をしたりしていたの。小学校は卒業したけど中等学校に進む金はなくて、書生さんをしながら独学で勉強して高等学校に合格しました。

青木 お仕事をしながら勉強を?

小倉 今では台湾一の工業大学になっている学校です。最下位で受かったけど、猛勉強してそれからはずっと満点をとり、総代で卒業しました。すべての科目が1位で、学校側からどれかの賞を他の人に譲ってくれって頼まれたとか。

青木 すごい方ですね!

小倉 これはΝНΚの『ファミリーヒストリー』という番組が調べてくれたことなんだよね。父は「帝国石油」の技術者だったんですけど、戦時中にインドネシアで油田開発に成功、今でもその油田があって、「日本人が石油を残してくれた」というのがちゃんと現地で伝わっている。そんな父親だから、絶対超えられないんです。僕なんか、22年間テレビ番組の司会を頑張ったところで何も残らないから。

青木 そんな。観ていた方の記憶には残っています。それは何か残したことと同じだと私は思います。

小倉 ありがとうございます。