「死後の顔を見られたくない」というのも希望のひとつで、コロナ下に参列を希望してくださる方は多かったのに、12人のみ、と人選もしてありました。

それから、棺に参列者が花を入れて送り出すのが一般的なスタイルですが、「花は足もとだけにして」という希望もありました。理由は、花粉で鼻がムズムズするから、らしいです(笑)。花のかわりに家族写真を入れてほしいと葬儀社に頼んであり、500枚くらいはあったかなあ。思い出の写真をスキャンしてプリントしたものがすべてポチ袋に詰めてあったんです。

写真を見て思い出話をしながら、みんなで棺に入れていく。よくこんなことまでひとりで考えたなあ、と思います。最後に入れるのは天ぷら屋で撮った写真、と父ちゃんに伝えていたそうで、泣きながら写真を棺に入れる父ちゃんを見て、僕も弟も涙が止まりませんでした。

遺影は、結婚式で着られなかったウエディングドレスを50代のときに着て撮った写真。出棺の音楽はベイ・シティ・ローラーズの「サタデー・ナイト」!

これほど葬儀に似合わない曲もないし、一瞬かけ間違いかと思った人もいたかもしれないけど(笑)、すべて母ちゃんの指定だと葬儀社の方から聞かされて、みんなで大笑い。僕以上の芸人魂、というか、見事なエンターテインメントでした。最後まで「他人に迷惑をかけない」「やりたいことをやる」人生を貫いた、母ちゃんらしいエンディングだったと思います。

 

遺書の形は人それぞれでいい

遺品もね、なにひとつ残っていなかったんですよ。まあ、もともと華美なものに興味が少ない人ではあったけど、数少ない指輪などは早い時期に僕と弟の妻たちに渡していたようなので。がんとわかったときから5年かけて、自然な形で形見分けをしていたんです。

タンスも空っぽ。残っていた下着などは、最後に自宅に帰ってきたあの日に処分した、と父ちゃんから聞かされました。父ちゃんがやったのは、たぶん銀行口座の凍結解除の手続きと、携帯電話の解約くらいじゃないでしょうか。

それから「誰もお参りできないお墓なら、なくていい」と、納骨堂も購入していました。お寺の決め手は、「あの住職の声でお経をあげてほしい」だそうです(笑)。父ちゃんが亡くなったら、2人の骨を一緒にして散骨して、という希望も事前に伝えられていました。