「もうやめてくれ!」と叫びたくなる怖さ

古田 オイラたちは今回、映画『空白』で共演してるけど、桃李とは以前、映画『パディントン』の吹き替え版で一緒になったよね。

松坂 はい。実は僕、古田さんを初めて知ったのが映画『木更津キャッツアイ』のオジーだったんです。強烈なインパクトがありました。

古田 あの役のときは、撮影の中盤に舞台の仕事が入っていたから、宮藤(官九郎さん)に「ごめん、オイラと阿部(サダヲさん)をどうにかしていなくさせて」って言ったの。で、オジーは死んでサダヲは捕まるっていう、卑怯な手を使った。

松坂 そうだったんですか(笑)! 今回の映画は『パディントン』とは全然違う、重いテーマの作品になりました。古田さん演じる漁師の添田は、離婚して中学生の娘・花音と2人暮らし。ある日、スーパーでの万引き未遂を店長にとがめられた花音は、走って逃げる途中で車にはねられ亡くなってしまう。娘を亡くした添田は、怒りの矛先を店長に向けてモンスター化していく、というストーリーです。

古田 桃李は店長の青柳役。同じスーパーで働く、青柳への《善意の押し売り》が過ぎる店員・草加部を寺島しのぶちゃんが演じているけど……。イヤだよなあ、オイラとしのぶちゃんが罵り合っている間に割って入るとか。(笑)

松坂 アットホームで優しい物語だったらいいんですけど。(笑)

古田 映画の告知を見ると、添田は怪物みたいに書かれることが多い。ただ、娘の学校の教師たちや娘を車で轢いた女性の母親、草加部や青柳との関係性を流れで見ていくと、心情的には変わっていっているんだよね。オイラはあえてそういうのを表現したくない人なので、具体的なそぶりは見せてないんだけど。何かしら心は動いているのかなって、観た人が感じてくれればいいんだから。

松坂 僕の演じる青柳は、自分を出せないというか、自分の主張がほとんどない男。そんな青柳が添田に追い詰められるシーンは、演じていて本当に怖かったです。お店を出たら外に立って僕をジーッと見てるし、夜、戸締まりをして帰ろうと思ったら裏口で缶ビール飲んで待ってるし。「あー、またいる。もうやめてほしい!」と叫びたくなる怖さ。それが今回の古田さんにはありました。

古田 オイラはやりやすかった。桃李は監督が言った通りにやる人だったから撮影も早く終わって。

松坂 この現場、巻きましたからね(笑)。撮影がどんどん進む。

古田 オイラは「すいません、もう1回やらせてください」って言う俳優が苦手なんだよ。あと、監督でも「もう一丁!」が出てくるのを待つ人がいるけど、出ないです。オイラは早く帰りたい一心で全力でやってるんだから、最初にやったのが一番面白い。そして二度とそのテンションは戻らない。