三年生最後の学校祭最終日に、タイムカプセルは埋められた。時期としては、夏休みが明けた八月末だったと思う。正直なところ、私は埋めたときのことをまったく覚えていない。その場にいなかったからだ。当時からタイムカプセルなど馬鹿馬鹿しすぎて付き合う気になれず、数人と連れ立ってカジュアルなイタリアンレストランへ行き、その後カラオケをした。レストランで何を食べたかとか、カラオケで誰が何を歌ったかとかならば覚えている。半熟卵が載ったカルボナーラピッツァとトマトとモッツァレラのカプレーゼ。カラオケで最初に歌われたのは『女々しくて』。花田が入れて男子たちが振りつきで歌ったから、かなり盛り上がった。
 そういえば、あの日レストランからカラオケに流れた一行は、このイベントに来るのか? 東京の難関私大に進学した私と違い彼らは道内に残ったはずだが、詳しい消息はわからない。卒業を機に、私は自分から彼らに連絡を取るのを止(や)め、向こうからコンタクトを取ってきたときだけ簡単に反応している。ほとんど縁が切れていたような彼らについて、今まで気にもしていなかったのだが、思い出すと確認したくなった。
 木下、安生、我妻、花田、嵯峨、中山。
 磯部から送られてきたはがき未着者リストには、安生の名前があった。彼女とのやりとりは、大学在学中に途絶えた。そして、私のグループじゃなかったクラスのその他大勢は? その他大勢なんてほとんど記憶に残していないけれど――あの子以外は。
 私の眼前に一人の女子生徒が像を結ぶ。あのカーストエラーは覚えている。本人はカーストエラーと自認していなかったようだったが。
 ローストしたアーモンドを前歯で齧(かじ)ると、思いがけずいい音がした。ともあれ、同級生たちの動向を知りたいのはやまやまだが、こちらから連絡して尋ねるのはおっくうだ。SNS担当幹事として、出席をお願いしているようでもある。あなたが行くなら私も行くけど、と判断をゆだねているみたいに取られても心外だ。私は決断力のない人間は嫌いだ。
 出欠を取りまとめている磯部に、今の時点での出席予定者を教えてほしいとDMを送るに留めた。これくらいならいいだろう。
 ふと気づいて時刻表示をチェックする。午後九時を過ぎていた。私の起床時間は午前二時だ。朝五時からの番組を担当しているからである。二時でもぎりぎりの上、明日は都内でも深夜から早朝にかけてかなり冷え込み、みぞれがまじる予報が出ていた。タクシーも早めに来るはずだ。
 私は残りのナッツを捨て、返信はがきをとりあえずバッグに突っ込んで寝支度を整えた。
 翌朝、局へ向かうタクシーの中で、いつものようにメッセージの類をチェックした。磯部からの返信はまだなかった。まあ、これはいい。彼にも都合があるだろう。
 SNS担当幹事としての最初の投稿に、早くも七件レスポンスがついていた。フォロワーも二桁に乗っている。
『みんな、元気? 三井だよ! 井ノ川、SNS幹事お疲れさま! ついに同窓会アカウント開設なんだね。めっちゃ楽しみです。もちろん同窓会とタイムカプセル開封式も出席します!』
『井ノ川の番組、たまに動画配信で見てるよ! 同窓会は参加予定。花田も行くって言ってる。井ノ川も来るの? 難しいかもだけど来てほしいな 木下』
『みんなの変貌ぶりが楽しみw木下の匂わせえぐい 嵯峨』
『同窓会参加組はこのSNSフォローしとけば間違いないって感じ? 出席しますよ〜よろしく! 桜庭』
『ラグビー部だった富岡です。100日前からのカウントダウン開始とか、めちゃくちゃいいね。すまん、今から言っとくけど俺ちょっと太りましたww』
『たぶん行けると思います。よろしくお願いします。室田』
 意外だった。私の知らないところで同窓会は楽しみなイベントとして待たれていたようだ。書き込みからは各人の浮き立つ気持ちが伝わってくる。フォローしてくれたアカウントもチェックした。さすがに本名をそのままユーザーネームにしている者はいなかったが、明らかな部外者もいない。おそらく元三年六組の面々なのだろう。
 同窓会のアカウントなんて、関係者が意図して検索しなければなかなかヒットしない。だからか木下らは軽率に苗字まで書き込んでしまっている。でも私は違う。仕事柄、メディアに顔もフルネームも出ている。私の名前でサーチして辿り着く部外者は徹底的に排除するつもりだが、最初の書き込みということもあり、記名してしまった。適切な遠慮と礼儀を忘れてため口を叩くよそ者は、一つ一つ削除しブロックしていくしかない。とりあえず初日のレスポンスは、クラスメイトたちだけのようだ。
 あと一つはどうか。私は最後の書き込みを確認した。
 
 

<つづきは書籍でお楽しみください>

 

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