『更年期障害だと思ってたら重病だった話』村井理子・著 中央公論新社

唯一引きずっている後遺症

ここまで回復することができた私が今、唯一引きずっている後遺症をあえて書くと、それはフラッシュバックだ。

突然前触れもなく速くなった心拍。心臓の違和感で夜中に飛び起きた日。体の浮腫が抜けず、呼吸がままならなかったあの時。犬の散歩中に一歩も前に進めなくなったこと。あの、じわじわと迫ってくる危機的状況を思い出して、ぞっとするのだ。一刻も早く病院に行かなくては。それ以上先延ばしにしてはいけない。命がかかっている。子どものこと、家のこと、そんなことは二の次だ。急げ、とにかく急げ! と、今でもそんな気持ちになる。そして過去の自分の愚かさにため息が出る。馬鹿だねえと苦笑する。

呼吸ができずに病院に行った日、後の主治医が何度も私に聞いた。

「今まで自覚症状はありませんでしたか?」 

私は彼女のその質問に「まったくありませんでした」と答え続けた。でも、今はそれが私の嘘だったことがわかる。嘘というよりも、怖かったのだ。こんなに酷くなるまで何をしていたんですか、大変な状況ですよ、心不全なんです、自覚症状がないわけないじゃないですか……そう叱られるのではと恐れていた。

なぜなら、私ははっきりと自覚していたのだ。病院に行く前の数か月は、体調不良が続いた。呼吸が苦しく、夜は座っていなければ寝ることができなかった。後から知ったことだが、心不全になっていたために胸水が溜まって、横になると激しく咳き込む原因となっていた。そんな状態だったのに、私は普通に家事を、そして仕事をこなしていた。子どもの学校行事に参加していた。やってしまえば、できるものなのだ。本当にぎりぎりの状態だった。