優れたセラピストでも親以上の成果は出せない

こう言うと、「親でなくてもよいのではないか?」と言う声も聞こえますが、そこには二つ反論があります。一つは、年齢を重ねた行き詰まる大人に対して、親以上に真剣にそんなことを無償でやってくれる人など世の中には存在しないということ。

もう一つは、さらに重要な点として、どんなに優れた専門職のセラピストでも、親子で抱えている根源的な課題に関しては、親以上の効果は出せないということです。

もちろん、どうしても親の協力が得られなければ、次善の策としてセラピストが関わるやり方はありますが、得てして非常にお金も時間もかかり難しいうえ、成功したとしても、親に受け止めてもらえるほどのハッピーエンドには到達しません。所詮セラピストにできるのは、うまくいったとしてもセカンドベストとしての救いや癒やしの提供までです。

そもそも制度上の問題もありますが、私が自分の力不足を棚に上げて言わせてもらえば、そんな素晴らしい精神科医やカウンセラーに出会うことは我が国では非常に困難ではないでしょうか。私の周囲を見てもそう感じざるを得ません。

だから私は、あえてファーストチョイスとして、親の重要性を強調してきたつもりです。

子どもは、親がわかってくれずに感じてきた「寂しい、悲しいという気持ち」を、親に「そうなのね」と心の底から聴いてもらえて安心できれば、長年ため込んできた澱(おり)のようなものは消えていきます。

その極上の快感を覚えた子どもには、自分の本音の気持ちを大切にして生きる、つまり自分らしく生きたいという気持ちが芽生えます。そして、このままではいけないと自然に感じ、将来に向けての建設的な行動が始まります。それこそ他人からの押し付けではない、本当の意味での自立が始まるのです。

※本稿は、『8050 親の「傾聴」が子どもを救う』(マキノ出版)の一部を再編集したものです。


『8050 親の「傾聴」が子どもを救う』(著:最上悠/マキノ出版)

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