彼女はがっしりした手首をしていた

やがて彼女はモーガンを手離し、ミニを経てサーブに乗り替えたと聞いた。これもまた厄介な選択である。スウェーデンでは、ボルボは農婦の車、サーブはインテリの乗る車、などと冗談に言うらしい。ボルボは本当は凄い車なのだが、やたら頑丈だという噂からそんなゴシップが生まれたのだろう。航空機産業と縁のあるサーブは、いわば戦闘機のような車なのだ。

彼女の車遍歴はバンデンプラプリンセスの1300で締めくくられた。

私は一時期、『CAR GRAPHIC』誌で、サーブのパブリシティに協力していたことがある。森さんにはサーブもちょっとちがうかな、と感じたものだった。

サーブ(イメージ:写真提供◎AC)

森瑤子の本名が伊藤雅代であることは、のちに知った。彼女は芸大でヴァイオリンを学んだ音楽家でもあるが、私はヴィオラかチェロのほうがふさわしいような気がした。車も本当はボルボが、それも初期の1225のようなタイプが似合っていると感じていたのだ。

森瑤子は、がっしりした手首をしていた。そこに彼女の本質が表れていたように思う。それは農婦の質朴な手首を思わせる量感と力強さが感じられた。森瑤子の手というより、伊藤雅代にふさわしい手首だった。