夢や幸せというゴールに向かって――誠

「もし視力を取り戻すことができたら、一番見たいものは何ですか?」 そんな質問を受けることがあります。即座に僕は、「家族です」と答えます。やはり、一番見たいのは妻と子どもの顔ですね。 「私たち、お互い見えなくてよかったわ」亜矢子さんはいつもそんな冗談のようなことを言いますが。

「もし視力を取り戻すことができたら、一番やってみたいことは何ですか?」 続いて多いのは、この質問です。

「やりたいことは目が見えなくても大抵できますからね」と答えます。相手は怪訝そうな顔をしているのでしょう。一瞬、間があります。僕はいままで、スキューバダイビング、スカイダイビング、ガンシューティングなどのスポーツを経験し、フルマラソンも6回完走しています。

思うに、車の運転以外は僕は大抵できると思います。車の運転も、コンピューターによる完全自動運転車の時代がそこまで到来しているので、ちょっと大袈裟に言うと、もはや視覚障害があるためにできないこと、我慢しなければならないことはなくなるかもしれませんね。

マラソンを走るときは、目の見える伴走者と見えない僕が、1本のロープを持って同じ歩幅でゴールをめざします。

弁護士の仕事もこのマラソンの伴走者のようなもので、法律的なトラブル や事件に巻き込まれていたりする依頼人は、精神的にものすごいプレッシャーを感じていて大変な状況にあります。そんな依頼人と同じ歩幅で、精神的に支えながらゴールをめざしていく。

夫婦や家族もまた、マラソンを走るときの伴走者との関係に似ているように思います。

夫婦と家族が、人生というマラソンロードを同じ歩幅で、同じ風を感じながら、声をかけ合い、精神的に支え合いながら、それぞれの夢や幸せというゴールに向かって走ってゆく……。

僕たち家族の夢は、家族4人と、僕の父の先導で、夏の富士山に登頂すること。そんな目標を、亜矢子さんとかかげています。それが実現できたら、 親子三世代の富士山登頂となりますね。

僕は、この家族と一緒ならば、その「難所」もきっと乗り越えていけるだろうと信じています。「難所」を越えたその先には、それまで思いもしなかった新たな景色が広がっているはず。僕は、僕が父から教わったそんな人生の醍醐味を、これから子どもたちにも教えてあげられたら、と願っています。

※本稿は、『決断。全盲のふたりが、家族をつくるとき』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
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●大胡田誠さん:11月14日(日)13時20分より、山形県東根市中央運動公園体育館で「全盲の僕が弁護士に
なった理由 ~ あきらめない心の鍛え方」と題して講演会を実施。
https://www.city.higashine.yamagata.jp/14448.html

12月4日(土)14時30分から、海老名市文化会館にて、「コロナ危機を生き抜くための心
のワクチン~全盲弁護士の知恵と言葉~」と題して講演会を実施。
https://www.city.ebina.kanagawa.jp/event/1006517/1007763.html


●大石亜矢子さん:毎週土曜日14時30分~15時30分、インターネットの放送局「ミラクルTV」
でおしゃべりと弾き語りを配信中。みらクルTV 公式サイト https://miracletv.site/