お小遣いで母にケーキをご馳走したことも
今生のお別れをした後、子どもの頃に母と何度か一緒に来た喫茶店に入ってみたんです。そして、時々このお店で、自分のお小遣いを使って母にケーキやランチをご馳走したことを思い出しました。自分はずっと母を嫌っていたと思っていたけれど、本当は母を喜ばせたかったのだな、と。
そのとき、過去の感情や母への思いに気づいて、いろんなものが劇的にクルッと反転したんです。それを気づかせてくれたことが、母から私への最後のギフトだったのだと思います。
私の場合、母が生きている間はなかなかいい関係を築けませんでした。でも今は、彼女が背負ってきた苦労や悲しみを理解できる気がするのです。仕事をしながら子育てをするのは、ストレスもさぞ大きかったに違いない。母からつけられた傷は消えないけれど、一所懸命働いて育ててくれたのは紛れもない事実。だから今は、心から感謝しています。
生前は負の面ばかりを見ていましたが、良い思い出もあったことに気がつきました。
たとえば、小学校の運動会には必ずお弁当に栗ご飯を作ってくれたこと。仕事の後に八百屋さんをいくつか回っていい栗を吟味し、夜遅くまで一所懸命栗の皮を剝いていた。大人になって自分でやってみたら、本当に大変な作業(笑)。それを毎年、一言の文句も言わずにやってくれていたんですね。
それはひとえに、私を喜ばせたい一心だったのです。母の表現の仕方は曲がっていたけれど、やっぱり私を愛してくれていたんだなと思います。