怒られても、怒鳴られても落ち込まず

98年の『にごり江』の舞台稽古で蜷川幸雄さんに「相手の手を離す時、もう一捻り執着しろよ」って怒られた(笑)。ひと間、早いっていうか、江戸っ子の早さっていうか、切り替えの早さっていうか。後で映像を観て、「ああー、ここだな。ひと間早いなー」って反省する。私は執着心がないから早くなるの。

蜷川さんが言ってることはわかるから、怒られて落ち込むことはない。私が楽に自由に生きてると思う人がいるとしたら、それだと思うのよ。

蜷川さん名物の、「ヘター。死ねー。もう顔も見たくない」って、しょっちゅうダメ出しで怒鳴られて、「ほんとにこのオヤジ、殺してやろうか」とその時は思うんだけど、うまくいった時は、もうニッコニコして、なんか可愛いから許せる(笑)。浅利慶太さんもそう。いっぱい怒られた。でも怒鳴られてナンボって思ってるから。

ある監督は、「もう一回、もう一回」って言って、「なんで、ここ38回もやんなきゃならないの?」って思うこともあったけど、それを嫌だと思わないの、全然。私が泣き出すだろうって、周りは見てるかもしれないんだけど、落ち込むほうにはいかないのね。「あ、そう」、何威張ってるんだって、受け止めるからね。

ロンドンで『ハムレット』を上演した時に、初日の翌日の新聞に記事が載るのね。なんだか知らないけど、真田広之くんも蜷川さんも全然褒められなくて、私だけが褒められてたの。すっごい悔しそうに蜷川さんが、「お前だけ褒められて、チクショウ!」とか言って、可愛いのよ(笑)。信頼関係があるから、何を言われてもいじめられているとか全然思わない。

それから、出会った時の感じは大切ね。今日のグラビアのポーズだって、まぁ洋服が洋服だから、どうしようと思ったけど、自分も活きて、洋服も活きてって考えると、このポーズがいいのかなって、とっさに思いつく。そういうのが私、すごく大事だと思ってて。それは人も同じ。ぱっと見て、一瞬で、この人となら一緒に仕事したいかどうか、その感覚は大事にしてる。

今回の映画『梅切らぬバカ』の監督(和島香太郎)と初めて会った時もそうだった。まず若いのにチャラくない。その時、彼は37歳。で、こんな地味な作品を新人監督が書くなんて、どんなヤツがくるんだろうって思ってたからね。背が高くて、品がよくて、かっこいい男がきて(笑)。で、「なんで私なの?」って切り込んでいったのね。「言いたいことを率直に言って……、包容力があって……」ってオタオタしてたけど、まぁそれも可愛かった(笑)。出会った時の自分の感性、それしか信用しない。