お昼ご飯のデート、晩ご飯のデートと誘いが殺到

まだ海外に日本人が旅行するのは少なくて、エルメスに殺到する前だからね。

パリでね、20歳やそこらの小娘がシャネルの路面店に行ってよ、しかも一人で、モデルが3人か4人、私のためにショーをやってくれるなんて信じられなかった。顧客には普通のことだったの。私を紹介してくれた人がファッション界の大物おばさんだったから、イヴ・サンローランもお友達で、家にも食事に連れて行ってくれたり。洋服を買うと、仮縫い3回もやる。もうびっくり。洋服は何十万円もするけど、品物のよさだけではなくて、顧客のアナタのために尽くす贅沢の代価だったのね。

どの日もどの日も楽しかった。朝起きてご飯食べたら、まず語学学校に行くのね。2時間コースやって、お昼ご飯のデート、晩ご飯のデートって誘いが殺到してたから。(笑)

私の怪しいフランス語では何曜日の何時って伝わってなかったりして、ダブルブッキングすることがよくあったの。「ジュールとジムごっこね」とか言ってごまかして、3人で食べた(笑)。とっさによく出たと思ったけど(笑)。その頃の映画、日本の題名では『突然炎のごとく』、原題は『ジュールとジム』、フランソワ・トリュフォー監督の作品で、二人の男性がジャンヌ・モロー演じる女に恋する話。ウケたの。(笑)

カンヌに行った時は映画祭だったから、有名な監督たちがいっぱいで。当時はまだ若手だけど、ジャン=リュック・ゴダール、トリュフォー、ロマン・ポランスキーとかいたのね。その人たちに、「私はずっとパリにいるの。電話番号わからないけど、ここにいるから」って住所を教えたの。何度か会うことができたのは、国際女優になりたいとか、これっぽっちも思っていないから。ただボーイフレンドの一人としてね。(笑)

カジノにも行きたい。でもカジノは21歳からしか入れない。だから私のパスポートでは入れないの。私、夜は長いのにつまんないなーと思って、38歳の通訳の人のパスポートを借りるという手段を考えるのね。そういう悪巧みの知恵はね、あった。(笑)

で、ルーレットのテーブルに着くの。私は11日生まれだから、5フランを11のところに置いたら、ディーラーがすっと動かすの、23のところへ。「何すんの、オマエ」と思ったら、ウィンクするから、「まぁ、いいか」って見てたら、23に入るの。投げ入れ方で、彼が出せる数字があるのよ。(笑)

びっくりして見てたの。「あーそうだ」と思って、当たった半分をチップとして渡してね。おもしろいから毎晩その人のところに行く。それで大儲けしたの。(笑)

カジノは入りにくい、怖いっていう発想がなかったからね。見てみたい好奇心が勝っちゃう。それは子どもの頃からで、今も変わらない。

ファッション界の大物おばさん家に下宿したし、いい出会いがたくさんあった。人に恵まれたのね。