主人の命日を覚えていなかった

主人が亡くなって24年、息子の三回忌を終え、昨年は兄(四代目坂田藤十郎さん)も他界してしまい……。兄が老衰のため都内の病院で息を引き取ったのは11月12日だったのですが、その日、私の部屋に現れたんです。「お兄ちゃん、何してはるの?」と尋ねたら、ファーッと消えた。そのすぐあとに親戚から電話がかかってきまして、「今しがた息を引き取りました」と。兄の霊魂がお別れを告げに来てくれたんだと思いました。私には霊感なんてないんですけど、ああいうことがあるんですねぇ。

それにしても寂しくて。愛する人との死別は本当にこたえます。その都度、自分はもう立ち直れないのではないかというほど落ち込んで。主人の時は命日を覚えていなかった。悲しすぎて、頭では理解できても、心は受け入れることができなかったのでしょう。

若い頃の玉緒さん一家(玉緒さんインスタグラムより)

それでもやがて静かな心で、現実を受け止めることができるようになるんです。時間というのは老いるという意味においては残酷ですけど、悲しみを癒やしてくれる優しいものでもあるのだと思います。

私の目下の楽しみは、主人の一番弟子だった松平健くんとご飯を食べに行くことです。松平くんは私のことを「玉緒さん」とは言わず、「奥さん」と呼びます。瞬時に主人が生きていた頃へとタイムスリップするようで、それが嬉しい。

主人とは映画『かんかん虫は唄う』で初めて共演したんですけど、最初は結婚するとは思いませんでした。当時は市川雷蔵さんとのほうが共演も多くて、噂になったこともありましたし。

ある時、主人が開いたホームパーティーの席で、主人のマネージャーから「勝さんのこと好きですか?」と訊かれて、「好きか嫌いかといえば好きです」と答えたんです。そうしたところ、またもやマネージャーを通して「勝さんが結婚を前提にお付き合いしたいと言っています」と。とってもシャイで繊細な人でした。