自宅には戻れないと医師に言われ

――2016年、杉浦さんは自転車の練習のために女子登録選手だけのハイレベルなロードレースに出場し、落車事故に遭う。脳挫傷、くも膜下出血、頭蓋骨骨折などで、意識不明の重体に。一命は取り留めたものの、右半身の麻痺と高次脳機能障害が残った。
 

覚えているのは、レースのスタート直前、仲間と「頑張ろうね!」と言い合っていた時まで。そのあとのレース中の記憶は全部飛んでしまっています。次に思い出せるのは、ICU(集中治療室)を出て一般病棟に移るエレベーターから出た時の記憶で、そこから先も途切れ途切れ。事故後、医師の説明を書き留めたノートに書いてあったのは、自宅へは戻れないかもしれないということ、もう薬剤師はできないだろうということ。

でも、私はその説明を受けても、「何を言ってるの? 私、動けるよ」と思っていました。入院中はずっと車椅子生活だったので、半身麻痺というのがよくわかっていなかったのです。

医師からは「もうロードレースには出られない」とも言われましたが、「じゃあトライアスロンはやっていいですか?」なんてトンチンカンな質問をしたことも(笑)。でも、徐々に現実を突きつけられて……。

まったく覚えていないのですが、点滴の管を全部抜いて、病室から抜け出そうとしたものの歩けず、ベッドのそばに倒れていたこともあったそうです。「仕事に行かなきゃ」と、うわごとを言っていたとか。

認知症テストを受けた時の衝撃も忘れられません。ものの名前を聞かされた後に雑談をし、改めて「さっき言った3つの名前は?」と聞かれるのですが、まったく思い出せなかったのです。漢字やカタカナがわからないということもありました。ものの絵が描いてある絵本を読んでも、何の絵かわからないものがあって……。ショックでしたね。