「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーに、ライターとして活動をしているヒオカさん(写真提供◎ヒオカさん 以下同)
2020年から続く新型コロナウイルスの影響で、経済的に困窮する人も増えている。そのなかでも見落とされがちなのが「若者の貧困」だという。「若くて働けるのだから自己責任では?」という声もあるが、その構造を私たちは理解できているのだろうか。自らも貧困家庭に生まれ、「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしているヒオカさんによる新連載。第1回は「コロナでデパートの派遣を切られた話」です

短期の派遣として働き始めて5日目に起きた騒動

コロナの波が本格的に日本に押し寄せ始めた2020年4月。
私は派遣スタッフとして百貨店の催事場にいた。
フロア全体が特設会場になって、新生活応援フェアが開かれている。

本来、多くの人で賑わうはずの会場にいるのは、スーツを着た店員たちだけだ。
客1人に店員5人はつけそうなほど、暇をもてあました店員達が手持ちぶさたにあちこちに立っていて、客からすれば逆に圧迫感があるだろう。

しかし、バックヤードに行くと、エレベーターはいつもぎゅうぎゅうだし、「私語は控えて」「席は間隔を空けて」と書かれているが、広々とした食堂はどこも席が埋まっている。食事の席で気がゆるんでいるのか、マスクを外して談笑するグループもチラホラ見かける。売場は閑散としていても、従業員施設で感染のリスクは高い。

まだここで短期の派遣として働き始めて5日ほど。あわただしいと聞いていた催事のスタッフの仕事は、客は1日に数組ほどで、あまりに暇で、フロア周を何周も歩いてはマニュアルを見て時間をつぶす。

しかし、その日は午後から急に物々しい雰囲気が漂い始めた。
普段は見ない、本社の社員が入れ替わり立ち替わり来ては、フロアの社員に耳打ちしている。時折、「緊急事態宣言」というワードが聞こえて来る。

そして夕方。まだ閉店の時間は先なのに、社員達が特設会場のワゴンをしまい始めた。
そして、やっと派遣も呼び止められた。「この会場たたむから。手伝って」

何が起きたのか掴めぬまま、品番ごとに商品をまとめて段ボールに詰め込む。
一通り作業が終わると、私ともう一人の派遣が呼び出された。
「明日からあなたたちの仕事はなくなりました。申し訳ないけど、今日で終わりです」