苦しみながらも這い上がって

すると私の心の中で、この「新しいワ・タ・シ」の一言がキラキラと輝きだした。元に戻れないなら、抗うのではなく受け入れてみる。すると肩の力が抜けて、その晩はぐっすり眠ることができた。おかげで目覚めは爽快。ことのほか美しい朝日が差し込んできた窓に向かって、ぐーっと伸びをしてみると気持ちがいい。

四肢は相変わらず枯れ枝のようで情けない気持ちもあるが、私は間違いなく生きている。そう気づいた途端、置かれた環境を「地獄」だとか「天罰」だと解釈していたことが申し訳なく思えてきた。医師や看護師さん、患者さんたちにも感謝したいし、入院生活を支えてくれている家族にも感謝したいという気持ちがふつふつと湧き上がってきた。

この日から2ヵ月後に退院した私は、現在体重を3キロ増やして36キロまでに回復した。まだ体重を気にしているのは情けないことだが、苦しみながらも何とか這い上がって「新しいワ・タ・シ」として生まれ変わった。

一人暮らしの母のサポートをこなしながら、難病の診断を受けた夫の介護の準備を始めた。そして、新しい命を宿して頑張っている長女と、他県で新しい仕事に就いて忙しい毎日を送る次女とは、「母のよろず相談窓口」としてメールでささやかなやりとりをしている。

つい先日受けたCT検査でがんの転移がないとお墨付きをもらったが、いつまた再発があるかもしれない。でも、「今、生きてることに感謝。頑張らない。欲張らない」を合言葉に、骨と皮ばかりの体をぽきぽきいわせながら懸命に生きている。

<電話口の筆者>

森下さんは明るくハキハキとした口調で、「がんの手術は去年の初夏でしたが、再発もなく元気に過ごしています」と教えてくれました。「病気をきっかけに、死まで考えるほど精神的に追い詰められたことに自分でも驚いたので、みなさんに参考にしていただければと思って書きました」とのことです。

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