ここは「生きたい!」と願う人が来るところ

入院した翌日、精神科医の診察を受けた。医師からは「検査を受けて異常がないわけで、それでも不安があるというのなら精神科の専門病院に紹介状を書くから、今の環境を変えてじっくり自分と向き合ってみては」と穏やかな口調で言われた。

転院の前日、入院した4人部屋で隣になった女性・Aさんから寝る前に放たれたキツイ一言が忘れられない。

「がんの手術が成功して転移もなかったなんて素晴らしいじゃない。私なんか骨盤内から肺まで転移して、今もがん細胞が体の中あちこち飛び回ってるんじゃないかしら」とAさんは言った。「でも気にしないの。なるようにしかならないし。食事だって病院食を断って、チョコブラウニー2個よ。体が欲しているわけだからこれでいいの」ときっぱり。

さらに「あなた、おかずもご飯もほとんど残してもったいないじゃない。失礼だけど、あなたからは生きようという気迫が感じられない。ここは『生きたい!』と願う人、努力する人が来るところなのよ。死にたくて来たのなら、本当に病院中の患者さんに失礼だわ。生きたいのなら医者の言うこと聞いて努力してさ。それでダメってことはない。大丈夫よ、きっと!」と続ける。

最後は「言い過ぎてゴメンナサイ。こういう性分なのよ。転院先でも頑張ってね」、そう言ってぷいっと横を向いた。ベリーショートの頭におしゃれなバンダナをまいた横顔は、60代には見えないほど若々しくて美しかった。