息子からのHand-Me-Up

そのことを象徴するように、ここ1、2年、わたしは息子からお下がり、ならぬ、お上がりを貰うようになった。わたしは、英国の子ども服のサイズでいえば13歳用ぐらいでちょうどいい。だから息子には小さくなった服が着られるようになったのだ。成長期の子どもはすぐ大きくなるので、ジャケットやジーンズなどワンシーズンで着られなくなる。もったいないので家庭内リサイクルしようとこっそり貰って着ていると、息子は不快感を示す。

「ちょっとやめて。それじゃHand-Me-Down(お下がり)じゃなくて、Hand-Me-Up(お上がり)だよ」

「なんでダメなの?」

と聞くと、自分が最近まで着ていた服をわたしが着て歩いている姿を友人に見られたくないとか、ふつう母親は息子の服を着たりしないと言うのだが、要するに恥ずかしいみたいだ。

ちなみに、hand-me-upという表現は、通常、家庭内の若い世代が使わなくなった旧型のスマホやパソコンなどの電化製品を年長者が貰うことを指す。物品としてのhand-me-upだけではない。電化製品をどう使えばいいのかという知識や情報も、もっぱら下の世代の息子からわれわれに与えられている。

子育てが終わりに近づくと、上から下への方向で与えられていた物品や知識の逆流が始まるのだ。トップダウンの終わりはボトムアップの始まり。わが家の家庭内民主主義も新たなフェーズに入ったようだ。