イラスト:おおの麻里
「年々、夏の暑さが耐えがたくなっている」という声をよく聞きます。その原因は、気候の変化だけでなく、現代人がうまく汗をかけなくなっているから。“いい汗”をかける体をつくり、猛暑に備えましょう。(イラスト=おおの麻里 構成=天田泉 取材・文=鈴木裕子)

重症になると、命の危険を伴うことも

熱中症で救急搬送される人の数は年々増え続け、2018年5~9月に救急搬送された熱中症患者数は、全国で9万5137名(うち、死亡者は160名。消防庁発表)と、前年の同時期にくらべて1.8倍にのぼりました。

熱中症とは、高温多湿の環境に長時間いることで、体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温調節がうまくできなくなったりして、体温が下がらなくなった状態のこと。炎天下はもちろん、室内でも風通しが悪かったり、湿気がこもっていたりすると、発症する場合があります。症状はめまいや立ちくらみ、手足のしびれ、頭痛、吐き気など。重症になると、けいれんや意識消失、命の危険を伴うことも。

近年の熱中症患者急増の背景には、気候変動の影響があると考えられていますが、同時に「現代人が汗をかけなくなっていることも大きな要因」と、汗や体臭研究の専門家である五味常明先生は話します。

「人間は体温を一定に保つ恒温動物です。暑熱や激しい運動により、体温が上昇すると、汗をかいて、その汗が蒸発するときの気化熱によって体内の熱を放出し、平熱を保ちます。しかし、現代人はあまり汗をかかなくなってしまいました」(五味先生。以下同)

汗をかくことが少なくなったのは、運動不足や、夏にエアコンの効いた涼しい室内で過ごすため。

「汗は、皮膚組織にある『汗腺』から分泌されますが、汗をかかないとその機能も衰えます。そのため、暑くても『汗をかけない』=『体温調節ができない』となり、熱中症になる人が増えたというわけです」

また、加齢によっても汗腺の機能は衰え、汗腺数も減少。高齢者はとくに熱中症になりやすく、最悪の場合、死に至ることも。また、更年期以降の女性も熱中症のリスクが高いと言います。

「女性ホルモンの減少により、発汗機能をコントロールする自律神経のバランスが崩れてしまうのです」