自分らしく人生を歩んでいけたら

この本では、必ずしも雲の上の存在ではない、”人間味あふれる瀬戸内寂聴”を伝えるのが私の役目と思ってきました。好奇心にあふれ、おちゃめで可愛らしくて。でも書くことに貪欲で、先のことなど考えずに体が動いてしまう姿を。

書けてよかったと自分として思うのは、2020年に生まれた私の息子と先生の交流です。

寂庵の仕事を通じて知り合った人と結婚し、私に子どもができたことを先生はとても喜んでくれました。妊娠・出産を経て、めざましく成長していく赤ん坊の生命力に並々ならぬ好奇心を抱いていた先生。

今では2歳になった息子は、私が寂庵に連れていくたび先生に飛びついて、剃髪した頭をなでるんです。そんな息子を「私の最後の恋人」と呼んでくれました。

「自分が死んだらあの子は私が守ってあげるから大丈夫」と言ってくれた先生。その息子が、今私のそばにいる。それが先生との別れを迎えた私の、大きな支えになっています。

先生とともに駆け抜けた10年間で、私は川を泳ぐ魚のように、その時々に巡ってきたチャンスやご縁で人生を変えることができました。今後も先生が応援してくれた「書く」という仕事を大切に、自分らしく人生を歩んでいけたらと願っています。