3年間抑圧された感情を言葉に込めた
そして、そんな作文を書いたことなど忘れていたある日、先生が興奮気味に相談室に勢いよく入ってきた。
「あなたの作文、選ばれたから。県大会、出るよ」
はじめは何のことかわからなかったが、どうやら作文は選考に出されており、選ばれた人が弁論の県大会への出場が自動的に決まるらしい。
幸いにも、その年の会場は隣の市。平日でみんな学校だし、知り合いは誰もこないから大丈夫、そう言われて、出ることに決めた。
それから、すぐに準備にとりかかった。
先生の前では1回見せたか見せなかったか、くらいで、練習は完全に任されていた。
2回ほど読めば原稿は丸暗記できて、途中から紙を持たずに、移動やお風呂の時間、ひたすらぶつぶつつぶやいて練習した。
本番当日、大きなホールの会場はたくさんの人で埋め尽くされていた。
自分の出番が近くなると、緊張が興奮に変わった。
舞台に立って会場を見渡すと、なぜだか高揚感でゾクゾクした。
そこで、3年間抑圧された感情を爆発させるように、言葉に力を込めた。
決して目には見えないが言葉にエネルギーが宿り、うねって会場に届くのが分かった。
その時、
「あぁ生きてる」
そう思った。
今まで、自分の感情も、願望も。全部全部押し込めて、存在を消して生きてきた。そして意識的に何も感じないように努めてきた。
でも、今わかった。私にも確かに感情があった。とめどなく溢れ出す言葉もあった。
止まった時が動き出したようだった。