平手友梨奈のダンスとの出会い

しかし書き手をしていると、どうしても筆が執れなくなることがある。

とくにセンシティブなテーマや、自分の体験や感情を書く時は、精神状態が不安定だとなかなか難しい。生きていると日々、どうしても心を搔き乱されるような様々なことが起きる。

この仕事をしているかぎり、評価の目に晒されることは覚悟しなければならない。
それでも、たまに耐えられないことを言われることもあり、たまたま目にしたコメントが頭から離れず、しばらく立ち直れない、なんてこともある。

その時、一番厄介なのが、表現の可動域が狭くなってしまうこと。

自分の本能や感情より先に、人からどう思われるかが主体になり、「守り」に入って、書きたいことを書けなくなることだ。どうすれば、叩かれないかを考え始め、当たり障りがない言葉選びをするようになる。そしてだんだん自分が薄まっていくのだ。

去年の12月、私はとあるトラブルで、気持ちが沈みきっていた。

無理矢理デスクに向かうも、全身が重く、心は膜を張ったように何も感じず、ピクリとも動かない。

やらなければならない原稿はたまっているのに、筆もまったくすすまない。

そんな時、会社のテレビで流れてきたのが、平手友梨奈がビリー・アイリッシュ「No Time To Die」に合わせてダンスする光景だった。
その姿に思わず息をのんだ。周囲の雑音がかき消されて、音楽と平手友梨奈の体の動きだけが浮かび上がる。

まるで、みんながいる場所とは違う世界で一人、舞っているようだった。