寅さんが言うからこそ、満男の心に響く言葉になっている
私は生きものの研究をしていますので、生きものは長い間続いてきたものであり、これからも続いていくことが大事だということを知っています。そして人間も生きものですから、続いていくことが大事だと思っています。
でも自分がずーっと生き続けることはあり得ません。年をとるということは、次の世代に譲っていくということであり、それが生きものらしさなのです。
何も自分が立派である必要はありません。寅さんを見れば、妹のさくらをいつも悩ませる心配のタネみたいな人ではありませんか。周りの誰もが困った人だと思っているけれど、でもどこか気になって、心の底では好きになってしまう。寅さんの魅力です。
そういう人が言うからこそ、満男の心に響く言葉になっているのではないでしょうか。完璧型の人がお説教をしても、こうはいかないでしょう。いのちを続けていってくれる若い人たちに優しい目を向ける気持ちさえあれば、とくに何かをしなくとも、自分が生きやすくなるような気がします。
寅さんは、実際には一人でいることがほとんどですけれど、決して一人ではなく、たくさんのつながりを持っています。私たちも、思い出も含めて心の中にあるつながりを大切にすると、自分に対しても他人に対しても優しくなれて生きやすいと思うのです。
※本稿は、『老いを愛づる-生命誌からのメッセージ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
『老いを愛づる-生命誌からのメッセージ』(中公新書ラクレ)
白髪を染めるのをやめてみた。庭の掃除もキリがないからほどほどに。大谷翔平君や藤井聡太君、海の向こうのグレタさんのような孫世代に喝采を送る――年をとるのも悪くない。人間も「生きもの」だから、自然の摂理に素直になろう。ただ気掛かりなのは、環境、感染症、戦争、競争社会等々。そこで、老い方上手な先達(フーテンの寅さんから、アフガニスタンで井戸を掘った中村哲医師まで)に、次世代への「いのちのバトン」のつなぎ方を学ぶ。レジェンド科学者が軽妙に綴る、生命誌38億年の人生哲学。