「顔を合せ身を重ね」る状態でも「下紐は解かれぬ」まま
シキタエは、さらに考えをめぐらせる。自分か姫のどちらかが男であったら、よかったのに。何の因果があって、ふたりは女どうしに生まれたのか。想いあぐねたシキタエは、とうとうカシキヤヒメに思慕の念を告白する。
この求愛を、いつわりの皇女もうけいれた。顔を赤らめ、シキタエにつげている。
「我もそもじに露も変はらぬ相思ひ、女子同士の恋とはあんまりないたづらな、卑怯な事ゝたしなめば、たしなむ程心に心が逆らひ猶恋は彌(いや)勝(まさ)る」(同前)
二人は両想いであるという。ならば、カシキヤヒメにも、あらいざらいつげる手はあったろう。これまで、皇女をよそおってきたが、自分は男だ、と。だが、偽皇女は、そこまでふみこまない。女どうしの恋はせつないねと言うに、とどめている。
女装作戦を遂行し、敵のヤソタケルをほうむりさる。そのためには、味方もあざむかなければならないということか。
それでも、シキタエはよろこんだ。姫も同じ想いをいだいている。そのことがわかり、相手にだきついた。カシキヤヒメも、これには応じている。
「共に抱き合しめ寄せて、顔を合せ身を重ね」る状態になった。ただ、「下紐は解かれぬ」ままにしていたという(同前)。今風に言いかえれば、パンツはぬがなかったということか。やはり、カシキヤヒメには、自らの本性をかくす必要があったようである。