コロナ禍で売れ筋商品となったグッズ

「いいか、メシを食って元気にならんと、もう病院には連れて行けんからな。うちにはそんな金はないから、生きたかったら食え。死にたいなら食わんでいい」

すると猫はなぜかスッと立ち上がり、茹でた鶏のささ身を食べ始めた。貧乏な家の猫はそんなことを言われなければいけないのかと思うと不憫だが、それから奇跡的な回復を果たしたのだから、お金をかければペットのためになるというわけでもなさそうだ。

とはいえ、ペットにお金をかけること自体を楽しんでいる人たちもいて、前述のママ友なども愛犬の散歩中に道で出くわしたとき、「これ何だと思う?」と言って長い柄のついた大型クリップのようなものを見せてきた。犬の排泄物を挟んで取るものらしい。ビニール袋の中に手を突っ込んで手袋状にして排泄物を拾い、くるっと裏返しながら袋を外した時代は終わったのか。こんなものをいちいち持参して犬の散歩に行かなければならないのかと思うと、便利な時代になったようなそうでもないような感じだが、さっきまで誇らしげにしていたママ友が「あれ、開かなくなった。あれ?」とか言って、急に大型クリップと格闘し始めた。

「これバネが固いのかなあ。時々こんなふうに開け閉めできなくなるんだよね」と言う。

そういえば最近、近くの公園を歩くときは注意して見ていないとよからぬものが地面にいくつも落ちていて、踏みそうになる。ママ友によれば、くだんの大型クリップは近所のペットショップの売れ筋商品らしい。コロナ禍で増殖したペットたちが別のものまで近隣で増殖させてやしないだろうか。という暗い疑惑をわたしは抱いた。