イギリス在住のブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。今回は「ある増殖とその連鎖」。コロナ禍に急成長したのがペット業界だったのは世界共通らしい――(絵=平松麻)

ハイ・ストリートの時代は終わる

わが街ブライトンでは、2020年にコロナ禍が始まって以来、商店街のショップが一つ、また一つと閉店し、行動規制が完全に解除されたいまでもそのままである。こんなに不景気で寂しい街の光景を見るのは初めてだ。

そもそも、コロナ禍の前から「ハイ・ストリートの時代は終わる」と言われていた。「ハイ・ストリート」とは、英国では町や村の中心にある主要な繁華街を意味するのだが、オンライン・ショッピングのシェアが広がるにつれ、小売店に足を運ぶ人の数は減り、フィジカルに買い物に行く時代は終わるらしいのである。図らずもロックダウンがこれを加速させることになり、また、自宅待機で収入が減った人たちの購買欲も低下したため、ブライトンのハイ・ストリートはグローバル・チェーンの店舗以外はほぼ全滅ではないかと思うような壊滅的状況だ。

いや、グローバル・チェーンの洋服屋や靴屋でも、郊外の大型店舗は退店している。その後に入る店もなく、ガラス張りの店舗前面が汚れていつしか灰色になり、「2020スプリング・コレクション」と書かれたバナーが床にずり落ち、裸のマネキンと共に何年も置き去りにされている姿は侘しかった。うちの近くにそういう店舗が2つほどあった。

ところが今年、異変が起きた。どちらも大掛かりな改装が施され、新店舗になったのである。コロナ前は、1軒は洋服のグローバル・チェーン店で、もう1軒は家具屋だったが、2軒ともあるショップの別の部門になった。ペットショップのペット用品部門とグルーミング部門になったのだ。