外国人の「はじまりの街」として
つまりこうだ。小岩は元々は水上闇市で栄えていた。その通りを中心にフィリピンパブと韓国系店舗とタイマッサージ屋がテナントとして入り、やがて時間が経ち彼らが抜けていった。いろんな国の人がただ「安いから」という理由で小岩を目指した。
東京の大多数の人々から見れば、小岩は飲みに行く場所ではなくニーズは低い。日本人のニーズの低さと居抜き可能なテナントの潤沢な供給から、小岩は都内としては格安な賃料で店をオープンできる環境になった。外国人が最初に東京で店を出す分には最適な場所として、中央通りという線から面へと外国の店が増えていったというわけだ。
思えば小岩と同じく異国街として知られる池袋北口や西川口も風俗と飲食が絡み合う街で、風俗店やラブホテルのすぐ近くなど日本人があまり好まない立地に中国人が入ってきて、店を続々とオープンさせて今の形になっていった。他にも日本各地の風俗街で、外国人が空気を読むことなく料理店や食材店を開き国旗をはためかせている。
もちろん小岩の外国料理店の中には、バングラデシュの「ゴレルシャッド」やベトナムの「フォーおいしい」のように小岩から卒業する店もある。しかしこの2店の跡地にはやはり外国の店(韓国とベトナム)が入って営業を始めていた。内装を変更しないから新店の開業がすこぶる早い。
結果的に新大久保では再現できないような韓国おでん屋など安価な店や、自分好みにデコレーションした居抜きベースの店舗など、きわめて奇怪な店が小岩に多数誕生した。家賃の安さを理由に増加する外国人住民もいることから外国食堂と商店が商売として成り立つ。
小岩に外国料理を食べに行くような日本人は、僕のような変わり者が多く、日本人離れした店舗に寛容だ。だから本来日本人から受けそうなアドバイスを受けることなく、独自路線の店が営業し続けているのだ。
かくして最も残念な街と評されがちな小岩は、それが転じて様々な要因が絡み合い、日本屈指のバラエティ豊かな異国飯の街となった。
日本中探してもこれほど変な街はないし、今後も日本人にとって残念な街である限り、そのテナントの潜在的多さと利便性から様々な外国人が「はじまりの街」として、思い思いに自分の食堂をオープンしていくことだろう。
※本稿は、『移民時代の異国飯』(星海社新書)の一部を再編集したものです。
『移民時代の異国飯』(著:山谷剛史/星海社新書)
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