小川さんの作品/皇居外苑。子どもたちがジャンプする一瞬を捉えた(写真提供◎小川さん)

一所懸命働いてきたことへのご褒美

写真に興味を持ったものの、それまでカメラとは無縁だったので、最初は扱い方に戸惑うこともありました。シャッターを押せば写真は撮れますが、機能はまったく使いこなせません。だったら、詳しい人に教えを乞うしかない。そこで、家の近くのカメラ屋さんに聞きに行ったのです。

初めのうちは、お店の人たちも「ばあさん、また来たか」という表情でね(笑)。なかなか若い人のようにスンナリ理解、とはいかないのですよ。中途半端に知識があると、「こんなことを聞くのは恥ずかしい」と思うのかもしれませんが、私のように何も知らないとかえって平気。ごく初歩的なことも、どんどん質問できます。そのうち30代の女性店員さんと仲良くなって。その方には本当にお世話になりました。

写真教室にも入りました。ある日、桜が満開の新宿御苑に行ったとき、素敵な構図で写真を撮っている年配の女性がいらした。「いいですね」と声をかけたところ、「写真教室で来ているのよ。あなたもどう?」と誘われ、一緒に通うようになったのです。

この年齢で新しいことを習うのは新鮮で、若い方たちの熱心な姿を見て、「自分も頑張らなければ」と気持ちが奮い立ちました。

それまで家や工場の中で過ごしてきた自分が、まさかこんなに積極的に出かけるようになるとは。カメラが外の新しい世界へ私を連れ出してくれたのです。ご先祖さまが、一所懸命働いてきたことへのご褒美をくださったのかもしれません。

動きやすい格好でふらりと家を出て、撮りたいものがあれば撮る。私には、必ずシャッターを切ろうという執念深さはありませんから、「ああ、今日はだめだな」と撮らずに帰ることも。そこは気ままにやっています。