小川さんの作品/再開発が進む銀座の街角(写真提供◎小川さん)

撮りたい一心で渋谷のハロウィンへ

「この人を被写体にしたい」と思えば、奇抜なファッションの若者でも外国人でも、「撮らせてください」と声をかけます。英語は話せないので「エクスキューズミー」と「サンキュー」だけですが、みなさん快く応じてくれますよ。おばあちゃんが背中を丸めてお願いするものだから、警戒されないの。これは年寄りの特権ですね。

4年前、ハロウィンで若者たちが騒ぐ様子が報道された渋谷にも、家族に黙ってひとり出かけた。同居する息子の浩さんはこう振り返る。「電話で『調子づくのもいい加減にしろ』と怒ったら、ハチ公像の土台に張りついて撮影しているから大丈夫だと言い張って、聞く耳を持ちませんでした」。

けれど、今はもう心配しないことにしているのだとか。「この年まで自由に動いて、好きなことをやり続けていられる。それって最高じゃないですか」。

――ハロウィンのことは、あとでずいぶん叱られました(笑)。でも、仮装した人が集う風景を新聞で見たらうずうずしてね。行ったかいあって面白いものが撮れました。そうして自分なりに楽しんでいたら、写真教室の楳村修治先生の勧めで、2018年に初めて銀座で個展を開かせていただくことになったんです。

「私の作品なんかを見に来る方はいらっしゃるのかな」と案じていましたけど、会場が超満員でびっくり。「90代のおばあちゃんが?」と、同情で来てくださったのかもしれませんが、そうだとしても嬉しくて。

作品の前でお客さまがしばらく立ち止まって見てくださると、「もっといい作品を撮ろう」と励みになるのです。19年も21年もギャラリーから声をかけていただいて、本当にありがたいことです。