2019年に開催した個展「Tokyo eyesII」で来場者と交流する小川さん(中央。写真提供◎小川さん)

交差点のど真ん中で大の字になった外国人のお嬢さん

写真を始めて20年。まさか老後に、こんなにも夢中になり、長く続けられるものと出合えるなんて思ってもいませんでした。人生って何が起こるかわからないものですね。いくつになっても新しいことを始められるのだと、身をもって感じています。

私の場合、カメラ機材に凝るわけでもなく、撮影スポットに行くのも主に徒歩なので、お金がかかりません。ただ、最近はタクシーを使うことを覚えました。もう96歳だし、そのくらいはいいかな、と。

といっても、目的地までは乗らずに途中まで。料金が上がる直前で降ろしていただくの。そんな具合ですから、500円もかからない。長年の貧乏生活による節約精神が身についているんですね。(笑)

行動範囲は年を重ねるごとに狭まっていますが、なじみの場所でも常に新しい発見があります。季節や天候、お天道さまの位置によっても違いますし、加えて写真には「運」というものがあるんですね。晴れた日、川面に映る樹々の光景。「いいな」とカメラを構えたその瞬間、そこにハラリと落ちてきた鮮やかな色の木の葉1枚。その瞬間が撮れるのは、運に恵まれたからです。

以前、こんなことがありました。銀座のデパートの屋上から下の交差点を覗き込むようにカメラを向けていたら、そばにいた外国人のお嬢さんが突然、「ここで待っていて」と言うやいなや、1階に降りてビルの外に。歩道が青信号に変わった瞬間、交差点のど真ん中で大の字に寝転んだのです。

慌ててシャッターを切りました。彼女は「さよなら」とだけ言ってすぐに去って行きましたが、そんな人との出会いも運。そういった一瞬をいつも求めているので、同じ場所でも飽きることがないのです。

「撮影時のポイントは?」と聞かれることがありますが、いつも直感だけ。私は大したものは撮れません。上手な人の真似をしようとしても、絶対にそのようには撮れない。人さまとの比較ではなく、自分のやり方で、自分がいいと思える写真を撮る、それだけです。

この頃は多少ボケも加わって(笑)、数字を見たり、細かい操作が面倒になってきました。だから撮影のモード設定もカメラまかせ。年齢には抗えないところもありますが、それでも高齢になってこうした楽しみに出合えたことに感謝しつつ、今は一日でも長く撮り続けられることを願っています。