「二代目」の責任を感じて

もう一つのテーマは「家族」。真田昌幸と信之、信繁、親子三人の関係性を描きたかった。というのも、実は僕の実家って、真田家と家族の構図が似ているんです。

実家は複数のダンス教室を経営する、いわば零細企業で、僕はそこの長男。つまり跡取り息子です。中学生の頃には「作家になりたい」という気持ちを持っていましたが、若い頃の夢って変わるものですよね。教師や弁護士の職にもあこがれつつ、家族のためと考えダンスインストラクターになって家業を継ぐことにしました。

しかし、親子で同じ会社にいるというのはなかなか難しいことで。価値観や考え方が合わずに、父とすれ違ってしまうことがよくありました。父とは仲が悪いというわけではないし、尊敬している部分もあるのですが、埋められない溝みたいなものはあって。特に僕は長男ですから、「二代目」という目で見られるし、責任も感じていたのでしょうね。3つ下の弟はもっと柔軟で、やはり同じ会社にいるのですが、父ともうまくやっています。

 28歳の頃、ダンス教室で誕生日会のひとこま

しかも、教室は三重や京都、奈良、大阪エリアと、滋賀、福井、岐阜エリアの2ヵ所で展開していたのですが、父と弟が前者で、僕が後者の担当。同じ会社にいるけれど、僕だけが別の場所にいるというのは、沼田で分家した信之の境遇と似ているんですよね。

僕は真田家の中でも信之派。池波先生の小説は信之中心のものが多いのですが、そこに描かれている親子の関係を見て小学生ながらに「信之の気持ち、わかるわ~」と思っていました(笑)。だから今回、昌幸と信之親子の心情を描くにあたって、僕の経験は結構入れています。

真田家は信濃の豪族で、その地場では大会社の社長のように扱われていたと思うんですが、上には武田家や織田家といったいわば一部上場の大企業がいて、彼らとも渡り合っていかなければ、家を存続させることはできないと理解している。真田家は「表裏比興」と言われ、「知略に長けた食わせ者」というイメージがあります。そうやって戦国の世を生き残っていこうとする昌幸を信之は尊敬しているけれど、一方で昌幸の本質や実力を冷静に分析している面もあるんです。