書いていて、結構泣きました
「いつか上田城を大坂城みたいにしてやる」と昌幸が野望を語る場面があるのですが、それに対して信之が何も言わないのは、そういうことです(笑)。かと思ったら、昌幸からしたらこれは言われたくないだろうということを、あえて言う。昌幸は自分の心を見透かされていることが恥ずかしく、信之を鬱陶しい、小癪な奴と思っているんですが、どこかに嫉妬の気持ちも持っている。身内で互いの気持ちがわかりすぎるからこそ、他人よりも複雑な関係性になってしまうというか……。
実は僕、作家になってからほとんど父と会っていないんです。親子だからというだけでなく、世代で考え方が違う部分もあるだろうし、僕も意固地になっているところがあるのかもしれません。親子にはいろいろな形があって、外からは窺い知れない事情がたくさんあるのだと思います。
だからこそ、これはネタバレになってしまうので詳しくは言えないのですが、最終章で信之が家族に語りかける場面は実際に書いていて、結構泣きましたね。
信之は人質時代、武田家で暮らしていたし、関ヶ原の戦いの後は昌幸と信繁が九度山に監禁されてしまい、その後は会うことも叶わずふたりとも亡くなってしまったとされています。信之自身は90代まで生きたといわれていますが、家族で過ごした時間よりも、他人の中で生きた時間が長いんです。僕が信之だったら、きっとこう思うだろうなと、彼の気持ちになって言葉を紡ぎました。