2017年に作家デビューし、2022年『塞王の楯』で第166回直木賞を受賞した今村翔吾さん。実家の家業であるダンス教室の仕事をやめ、作家を目指した原点は子どもの頃に読んだ池波正太郎先生の『真田太平記』にあると言います。直木賞受賞1作目である『幸村を討て』は、戦国の世に名を轟かせた真田家の父と兄弟の物語。自身も兄としての葛藤もあり、作品にもその思いが反映されているそうです。作品への思い、創作の裏側を聞きました。
(構成◎野口美樹 撮影◎本社・中島正晶)
(構成◎野口美樹 撮影◎本社・中島正晶)
8歳のファンに感激
直木賞受賞1作目となった『幸村を討て』は発売前と発売後すぐに重版が決まるなど、たくさんの反響をいただいていますが、一番うれしかったのはインスタグラムで8歳のお子さんがこの本を読む様子が投稿されていたこと。
お子さんのお母さんの投稿なのですが、「図らずも歴史小説デビューしました。本屋さんで本当に本当に本当に読むの?って何度も確認して、だってハードカバーはお高いし、500ページ超え。投げ出したら私が読もうと決断し購入。さっき習い事に出かけましたが、家を出るギリギリまで読んでました。8歳を虜にする今村先生がすごい」というコメントともに、男の子が第2章を読んでいる写真がアップされていて。普段はしないのですが、この時はあまりにもうれしくて、思わずコメントしました。お母さんは「震えています。本人に伝えます」と。(笑)
僕が池波先生の『真田太平記』に出会った時、母は「ほんまに読むんかいな」と買うのをしぶっていました。そんな自分と8歳の子を重ねながら、僕も誰かにとっての池波先生になることができるだろうかと考えを巡らせました。この子にとっての初めての歴史小説の書き手が今村翔吾というのは消えないわけですから、これがきっかけでこの子が小説家になったら、こんなにうれしいことはない。なんでもいいから、小説を通して人の人生に影響を与えられたらいいなと思います。